男性型脱毛症(AGA)の原因はジヒドロテストステロン(DHT)がアンドロゲン受容体(AR)に結合して起こることですが、薄毛の要因は他にもあるため、根本的に薄毛を改善したいのであれば、そもそもの生活習慣を改善しなければなりません。以下に発毛を促す生活習慣をまとめました。
発毛を促す良い習慣6選
発毛を促す習慣に関係してくるものとして、運動習慣、体内の水分保持、食生活(飲酒含む)、睡眠、タバコ、ストレスがあります。それぞれ、順番にくわしく説明していきましょう。
運動習慣の必要性

無理なく継続できる運動を習慣化することが効果的です。
AGAの原因となるDHT(ジヒドロテストステロン)1は肝臓で分解され、尿として体外に排出されます。そのため、新陳代謝を促進するために有酸素運動を習慣化することが大切です。
週2~3回、20分~1時間程度のウォーキングやジョギング、サイクリングなど、心拍数が110~120回/分程度の無理なく続けられる運動がおすすめです。
ただし、激しい運動はストレスを増やす可能性があるため避けましょう。また、適度な運動は自律神経を整え、代謝や髪の成長を助ける効果も期待できます。
体内の水分保持

新陳代謝を促すためにも日頃からの適切な水分補給が大事です。
血液中の水分が足りないと、尿として老廃物を体の外に出すのが困難になります。つまり、老廃物が体にとどまりやすく、血流不良がつづくと心臓や肝臓、腎臓に負荷がかかり、臓器そのものの機能低下および全身の機能低下につながってきます。水分補給は基本的には3食の食事のほかに1日に1.5~1.6L以上(最低でも1.2L以上)とるのがよいです。
また、水分不足により皮膚が乾燥すると、皮脂の過剰分泌をまねく可能性があり、皮脂腺が詰まり皮膚炎を引き起こすリスクが高くなります。
そもそも、ジヒドロテストステロン(以下「DHT」)が皮脂腺にあるホルモン受容体と結合することで、皮脂腺を活性化させて皮脂の分泌を促す作用があるため、AGAの方は「脂漏性脱毛症2」にもなりやすいため、要注意です。
食べるものを見直す

連日の飲み会や自炊が面倒で外食やコンビニ弁当ばかりの生活を送っている方は要注意です。
飲み会で定番のから揚げなどの揚げ物などは脂質が多く、脂肪の多い食事は、テストステロンやその代謝産物であるDHTの分泌を促進することがあり皮脂腺の活動を増加させます。またアルコールは糖質が多く含まれており、これもまた皮脂腺を活性化させ、皮脂の過剰分泌を引き起こします。
このような食生活ばかりだと栄養バランスの偏りがおき、ビタミンやミネラルが不足し、髪の健康に必要な栄養が不足します。特に亜鉛や鉄分不足は髪にかなり影響します。また、味の濃い食事(塩分の過剰摂取3)ばかりになると、体内の水分バランスを崩し、皮膚の乾燥をまねいたり、動脈硬化や脳卒中、酸化ストレス(たばこの章を参照)の上昇により、体内での炎症を促し、老化が進みます。
- 主食:ご飯、パン、麺類など、主にエネルギー源になる料理。
- 主菜:肉、魚、卵、大豆製品などを使った、主にタンパク質を多く含む料理。
- 副菜:野菜、きのこ、海藻などを使った、ビタミン・ミネラル・食物繊維を多く含む料理。
さらに、髪の成長や脱毛を抑制する成分として、以下にまとめました。
髪の成長を助ける成分
- 亜鉛:カキ、赤身肉(牛肉、羊肉など)、魚介類(カニ、エビ、サバ、煮干しなど)、鶏肉、パルメザンチーズ、卵など
- ビタミンB6:レバー(豚・牛)、鶏むね肉、サーモンなど
亜鉛は細胞の分裂と成長に必要なミネラルであり、毛母細胞の生成を助けます。また、抗酸化作用を持つため、細胞を酸化ストレスから守り、さらに皮脂腺の調整をサポートし、頭皮の健康を維持します。
ビタミンB6は、亜鉛の吸収には欠かせない栄養素として知られています。
飲酒が髪に悪い理由 アルコール摂取が亜鉛の腸内吸収を減少させ、尿中への亜鉛排泄を増加させる4ため、体内の亜鉛が低下し、毛髪を作る細胞の分裂が遅れ、毛髪の成長速度が低下します。つまり、髪が育ちにくくなってしまうため、薄毛につながってしまうのです。
※また、「フィチン酸」や「シュウ酸」は亜鉛と結合し、不溶性物質に変わり、体内での亜鉛吸収を阻害するため、食べ合わせに注意が必要である。「フィチン酸」は穀類(特に玄米、小麦ふすま)、豆類、ナッツ類に多く含まれ、「シュウ酸」は ほうれん草、タケノコ、ナッツ、紅茶などに含まれる。吸収率の悪い亜鉛の吸収を悪くしないようにするのがポイント!
脱毛を抑制する成分
- β-シトステロール:ノコギリヤシ、かぼちゃの種
- フィトステロール:かぼちゃの種
- イソフラボン:豆腐、納豆、厚揚げ、豆乳など
これらの栄養素には5αリダクターゼの働きを抑制する作用があるため、DHTの生成を抑制することが期待されます。
十分な睡眠をとる

DHTを抑制したい人は、睡眠時間を確保してください。
質の高い睡眠を十分な時間確保することで、乱れたホルモンバランスが整います。
質の高い睡眠のために、以下の項目を意識しましょう。
- 毎日規則正しい時間に起きて、朝の光で体内時計をリセットする
- 就寝前3時間以内に食事をしない
- 就寝の2~3時間前に40度以下のぬるめのお湯に10~30分入浴する
- 就寝前にスマホやパソコンを見ない
就寝前の行動で、睡眠の質は変わるので、できるところから取り入れて意識を変えていきましょう。
禁煙する

喫煙は、DHTの量や頭皮環境にも影響します。
研究により、喫煙者は非喫煙者に比べると、DHTの割合が14%高くなる5という結果が出ています。
また、たばこを吸うと身体的ストレス(酸化ストレス6)が加わるため、5α-リダクターゼ活性が増加し、DHT生成を増加させる7可能性もあります。そのため、喫煙習慣のある方は禁煙できればDHTを抑制する効果が期待できるでしょう。
そして、たばこに含まれるニコチンは頭皮の毛細血管を収縮させ、毛髪の成長に必要な酸素や栄養が行き渡るのを妨げます。喫煙習慣をやめることで髪の成長を阻害する要因を除けるため、できる限り禁煙を行いたいところです。
禁煙しようとたばこを吸えないストレスで抜け毛や薄毛が悪化したという例もあるため、少しずつ自分のペースで本数を減らしてみるなど、工夫をして禁煙に取り組んでみましょう。
ストレス

精神的なストレスはホルモンバランスを崩し、血行不良、炎症の増加をまねきます。
ストレスにより、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されます。精神的・身体的ストレスが続くと、頭皮の血流が悪化8し、毛根に栄養が行き渡らず、DHTの影響を受けやすい状態になります。
また、ストレスがずっと続くことにより、慢性的にコルチゾールが分泌され、交感神経が持続的に刺激されます。つまり、ぜんぜんリラックスができずに眠りにつけない日々を送ることになってしまうということです。これは疲れがとれないばかりか、髪の成長に必要な成長ホルモン9(睡眠中に分泌される)が十分に分泌されないので毛周期(ヘアサイクル)が乱れ、細い毛や脱毛につながってしまいます。
ただ、根本原因は遺伝による髪の脱毛体質なのでまずはそこから改善していくのが肝心です。

注釈一覧
- [ジヒドロテストステロン]髪の成長を抑制する「5αリダクターゼ」と「テストステロン」が結合したもの ↩︎
- [脂漏性脱毛症]頭皮の皮脂が過剰に分泌されることで毛穴が詰まり、炎症やかゆみを引き起こし、髪が抜けたり薄くなったりする脱毛症です。原因には、皮脂の過剰分泌、マラセチア菌の増殖、ホルモンバランスの乱れ、ストレスなどが関与します。症状としては、抜け毛、頭皮のべたつき、かゆみ、フケなどが見られます。皮脂の過剰分泌に関して、食生活もかなり重要です。皮脂の主成分は中性脂肪のため、酒や糖質・油分の多い食事をとることにより、皮脂の過剰分泌が促されます。
↩︎ - [塩分の過剰摂取]血管内皮細胞に負担がかかり、内皮機能を低下させます。内皮細胞の機能が低下すると、血管内で活性酸素が増加し、酸化ストレスが生じます。免疫系にも影響を与え、炎症性サイトカイン(例:IL-6、TNF-α)の産生を増加させます。 ↩︎
- [アルコール摂取による体内の亜鉛低下]アルコールによる腸壁の炎症や損傷により、亜鉛の吸収効率が低下し、腎臓での亜鉛再吸収を低下させ、尿中への亜鉛排泄が増加する
参考資料:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29177978/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6206836/?utm_source=chatgpt.com ↩︎ - [喫煙者は非喫煙者に比べると、ジヒドロテストステロンの割合が14%高くなるという研究結果]
参考資料:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7962322/ ↩︎ - [酸化ストレス]活性酸素が体内で過剰に増加した状態のことです。過剰に増えた活性酸素は健康な細胞やDNA、脂質、タンパク質を攻撃してダメージを与えます。つまり、老化や病気の原因になります。タバコの煙には、一酸化炭素(CO)、過酸化水素(H₂O₂)、窒素酸化物(NOx)などの化学物質が含まれており、これらが活性酸素として働きます。また、タバコに含まれるニコチンも交感神経を刺激して体内の酸素消費量が増え、活性酸素も生成されます。さらに、タバコに含まれる有害物質が体内で炎症を起こし、炎症細胞(マクロファージなど)が活性酸素を大量に生成します。 ↩︎
- [5α-リダクターゼ活性が増加し、DHT生成を増加させる]炎症細胞(マクロファージなど)が出す、炎症性サイトカインが5α-リダクターゼを発現する細胞(皮脂腺細胞、毛包細胞、前立腺細胞など)に作用し、細胞内で5α-リダクターゼの生成が促進され、5α-リダクターゼが活性化し、テストステロンがDHTに変換される速度が上昇し、結果DHTが増加します。 ↩︎
- [頭皮の血流が悪化]過度なストレスにより、過剰にコルチゾールが分泌され、血管が収縮します。これは、血流を必要な臓器(心臓、筋肉など)に集中させるため、特定の血管を収縮させる働きがあるからです。一方で、消化管や皮膚などの緊急時に重要性が低い部位への血流は減少します。また、慢性的なコルチゾール分泌により、交感神経が持続的に刺激されるため、高血圧、心拍数増加、血糖値上昇、睡眠障害、免疫低下といった多岐にわたる悪影響を引き起こします。 ↩︎
- [成長ホルモン]毛包の中の毛母細胞(髪を生み出す細胞)の分裂を促進します。これにより、毛が太く長く成長するため、成長期が維持されます。また、毛包の細胞を酸化ストレスや炎症から保護し、細胞の修復を助けます。これにより、毛包が健康な状態を維持し、正常な毛周期をサポートします。さらに、頭皮や毛包への血流を改善する働きがあります。これにより、毛包に必要な酸素や栄養素が届きやすくなり、髪の成長が促進されます。 ↩︎
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